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帰郷 2 --- 肌を洗うすずやかな風
また一人、好きな作家が
好きな作家だった海老沢泰久氏の訃報を一昨日、知る。F1、プロ野球、料理・・・といったノンフィクション、また小説も、と特にスポーツ全般を得意とする硬質でキレのある文章にいつも引き込まれていた。
最近では『Number Web』での連載が楽しみだった。ややシビアで辛口な論は万人に支持されたわけではないだろうけれど、単純に選手をヨイショし、世論に迎合する、そうしないと食い続けられない世に多いスポーツライターとは違い、自分の信念に基づいて一流選手でも容赦なく斬っていた鋭い視点には僕も多くうなずけた。まだもっと書きつづけてほしかったが残念である。
5年前にアップした直木賞受賞作品をもう一度、手にしてみた。
田辺聖子評---「達意のうちにいいがたい情感のにじむ文章」
文庫に収録されている解説は、直木賞選考委員であった田辺聖子。これが素晴らしい。さすがは田辺センセイというべきか、プロとして大先輩としての格が数ページに凝縮されている。解説だけで三重丸。
『帰郷』はふしぎな小説群である。
この一冊の本には風が吹きわたっている。
これは湿潤な、なま暖かい風ではなく、肌を洗うような、秋の水のような風、それと目に見えないが、この風に吹かれたあとは、<心地よい悟り>のような、さらりとした情念に心が曝される。それは虚無というのではなく、匙を投げるというものでもなく、ましてあきらめや虚脱というものではない。あくせく人生を生きることは以前と変わらないけれど、角張った片意地がほんの少しゆるみ、視界がひらかれてくる。
そんな風が吹いている。
前回も記したが、最初の二編の「帰郷」と「夏の終わりの風」がとてもいい。選考会でもこの二編が好評だったという。
山口瞳---「海老沢さんの文章が好きだ」
男性作家でいえば山口瞳、伊丹十三、向井敏(評論家)・・・が僕の好きな系統なのだが、皆、通じるところがあるから。今回、ネットで当時の直木賞選考でやはり山口氏が本作を絶賛していたことを知る。かつて激励された大先輩にきっと向こうでまたあたたかく迎えられていることだろう。
訃報は残念であるけれど、僕にはいいときに思い出させてもらえた。デフリンピックに行く前に、あの本をもう一度、読んでから、心に刻んでから出かけたい。
海老沢さんの文章が好きだ。
気取らない、大仰に騒ぎたてない、文学臭のある言い廻しを排除する、手垢のついた言葉を使わない剛直な文章で、つまりはこれがハードボイルドなのだが、私はすぐにヘミングウェイを連想する。
表題作の「帰郷」が断然優れている。F1の描写はほとんど一行もなくて、それでいてF1の豪奢、純粋、緊張、恐怖を深く読者の心に刻み込む。
満足度:★★★★★
2009-08-15








